京都地方裁判所 昭和52年(わ)1319号 判決 1986年2月27日
本店所在地
京都市南区上鳥羽南中ノ坪町一九番地
京浜工事株式会社
(右代表者代表取締役 佐藤好夫)
本籍
京都市南区吉祥院中河原里北町四一番地
住居
右同所
会社役員
佐藤好夫
昭和九年一月六日生
右の者らに対する法人税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官關本倫敬出席のうえ審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人京阪工事株式会社を罰金一三〇〇万円に、被告人佐藤好夫を懲役一年にそれぞれ処する。
被告人佐藤好夫に対し、この裁判の確定した日から二年間その刑の執行を猶予する。
訴訟費用は被告人らの連帯負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人京阪工事株式会社は、肩書地(昭和五三年四月までは京都市下京区中堂寺鍵田町一二番地の四)に本店を置き、土木請負業を営む株式会社であり、被告人佐藤好夫は、右会社の代表取締役としてその業務全般を統轄していたものであるが、被告人佐藤好夫は、右会社の業務に関し法人税を免れようと企て、公表経理上工事原価として架空の外注費を計上するなどし、よって得た資金を架空名義の預金とし、あるいは簿外の接待交際費として留保するなどして所得を秘匿したうえ、
第一 昭和四九年四月一日から同五〇年三月三一日までの事業年度における右会社の実際所得金額が一億四六八四万五〇二〇円で、これに対する法人税額は五六二〇万八三〇〇円であったにもかかわらず、同五〇年五月三一日同市下京区間之町五条下ル大津町八番地下京税務署において、同税務署長に対し、その所得金額は一七八三万一七五〇円で、これに対する法人税額が四七一万四四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま納期限を徒過させ、もって不正の行為により右正規の法人税額と右申告税額との差額五一四九万三九〇〇円を免れ、
第二 同五〇年四月一日から同五一年三月三一日までの事業年度における右会社の実際所得金額が一億三九七二万八二六七円で、これに対する法人税額は五二二五万七七〇〇円であったにもかかわらず、同五一年五月三一日前記下京税務署において、同税務署長に対し、その所得金額は八四八二万五七〇八円で、これに対する法人税額が三〇六九万五九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま納期限を徒過させ、もって不正の行為により右正規の法人税額と右申告税額との差額二一五六万一八〇〇円を免れ
たものである(税額の算定等は、別紙修正損益計算書及び脱税額計算書のとおり)。
(証拠の標目)
判示事実全部につき
一 第四回、第三五回ないし第三八回公判調書中の被告人の各供述部分
一 被告人の当公判廷における供述
一 被告人の大蔵事務官に対する質問てん末書一〇通(検第一一七号ないし第一二六号)及び検察官に対する供述調書二通(検第一二七号及び第一二八号)
一 被告人作成の確認書(検第一一三号)
一 第六回、第八回公判調書中の証人中村公の各供述部分
一 第一四回、第一五回公判調書中の証人佐野市郎の各供述部分
一 第一六回公判調書中の証人柴田宏の供述部分
一 第一七回公判調書中の証人並木輝人、同篠原友義の各供述部分
一 証人中塚武雄に対する当裁判所の尋問調書(昭和五三年九月二五日施行)
一 証人高田利一に対する当裁判所の尋問調書(昭和五五年九月三日、同年一〇月三日、同五六年一月二七日及び同年二月二六日各施行)
一 第二九回公判調書中の証人山本良次の供述部分
一 第三四回公判調書中の証人野口佐治兵衛の供述部分
一 高田利一の大蔵事務官に対する質問てん末書七通(検第七号ないし第一三号、検第九号以外は抄本提出部分に限る)及び検察官に対する供述調書二通(検第一五号及び第一六号)
一 佐野市郎の大蔵事務官に対する質問てん末書二通(検第二一号及び第二二号、抄本提出部分に限る)及び検察官に対する供述調書(検第二四号)
一 望月弘の大蔵事務官に対する質問てん末書(検第二六号)及び検察官に対する供述調書(検第二七号)
一 柴田宏の大蔵事務官に対する質問てん末書二通(検第二八号及び第二九号、検第二九号は抄本提出部分に限る)及び検察官に対する供述調書(検第三〇号、抄本提出部分に限る)
一 並木輝人の大蔵事務官に対する質問てん末書二通(検第三三号及び第三四号、検第三四号は抄本提出部分に限る)及び検察官に対する供述調書(検第三五号)
一 徳原正雄の大蔵事務官に対する質問てん末書二通(検第三六号及び第三七号)及び検察官に対する供述調書(検第三八号)
一 堤梅雄の大蔵事務官に対する質問てん末書(検第三九号)及び検察官に対する供述調書(検第四〇号)
一 松田愛生の大蔵事務官に対する質問てん末書(検第四一号)及び検察官に対する供述調書(検第四二号)
一 池田武雄の大蔵事務官に対する質問てん末書二通(検第四五号及び第四六号)及び検察官に対する供述調書(検第四七号)
一 西沢一郎の大蔵事務官に対する質問てん末書(検第五一号)及び検察官に対する供述調書(検第五二号)
一 中塚武雄の大蔵事務官に対する質問てん末書二通(検第七七号及び第七八号、抄本提出部分に限る)及び検察官に対する供述調書(検第七九号)
一 中村公の大蔵事務官に対する質問てん末書二通(検第八四号及び第八五号、抄本提出部分に限る)及び検察官に対する供述調書(検第八六号)
一 山住信一こと崔鐘斗の大蔵事務官に対する質問てん末書(検一〇七号)及び検察官に対する供述調書(検第一〇八号)
一 中尾民也(検第三二号)、篠原友義(検第四三号)、大西友二(検第四四号)北浦秀雄(検第四八号)、佐藤建夫(検第四九号)、西島一雄(検第五〇号)、斉藤清(検第九五号)、中村春之亟(検第九六号)、田中泰之(検第九七号)、斉藤茂(検第九八号)、菊池容子(検第一〇〇号)の大蔵事務官に対する各質問てん末書
一 高田利一(検第二〇号、抄本提出部分に限る)、浅田重夫(検第五九号)、中塚武雄(四通、検第八〇号ないし第八三号)、中村公(二通、検第八七号及び第八八号)、玉応亨三(検第八九号)、喜多一可(検第九〇号)、石橋隆男(検第九一号)、大井健二郎(検第九二号)、東井汪(検第一〇一号)、松田治郎(四通、検第一〇二号ないし第一〇五号)作成の各確認書
一 国税査察官作成の査察官調査書六通(検第七一号、第七二号、第九四号、第九九号、第一〇六号及び第一一二号)及び調査報告書(検第七三号)
一 大蔵事務官作成の証明書(検第一〇九号)
一 登記官作成の登記簿謄本四通(検第二号、第一三六号ないし第一三八号)
一 押収してある金銭出納帳二冊(昭和五四年押第九四号の一、二)、ゴム印一個(同押号の三)、印鑑一個(同押号の四)、重機売買契約書一綴(同押号の五)、外注費支払明細及び領収証八枚(同押号の一二)及び雑書二綴(同押号の一三)
判示第一の事実につき
一 大蔵事務官作成の証明書(検第一一〇号)
一 押収してある工事未払金台帳一綴(昭和五四年押第九四号の七)、外注台帳一綴(同押号の一一)、源泉徴収簿兼賃金台帳一冊(同押号の一四)及び領収証請求書綴二綴(同押号の一六、一七)
判示第二の事実につき
一 第一八回公判調書中の証人大平静雄の供述部分
一 第一九回、第二二回公判調書中の証人渡辺光の各供述部分
一 加藤博の大蔵事務官に対する質問てん末書(検第五四号)及び検察官に対する供述調書(検第五五号)
一 佐野市郎(検第二三号)、松井好美(検第三一号)、大平静雄(検第五三号)、渡辺光(検第五七号、抄本提出部分に限る)、三村逸雄(検第五八号、抄本提出部分に限る)の大蔵事務官に対する各質問てん末書
一 高田利一(検第一九号)、佐野市郎(検第二五号)作成の各確認書
一 渡辺光作成の取引内容照会に対する回答と題する書面(検第五六号)
一 国税査察官作成の調査報告書(検第七四号)及び査察官調査書二通(検第七五号及び第七六号)
一 大蔵事務官作成の証明書(検第一一一号)
一 押収してある工事未払金台帳二綴(昭和五四年押第九四号の八)、決算調整メモ一綴(同押号の九)、外注台帳一綴(同押号の一〇)、源泉徴収簿兼賃金台帳一冊(同押号の一五)及び領収証請求書綴四綴(同押号の一八ないし二一)
(事実認定等についての補足説明)
(以下判断するにあたって昭和四九年四月一日から同五〇年三月三一日までの事業年度を昭和四九年度分と、同年四月一日から同五一年三月三一日までの事業年度を昭和五〇年度分という)。
一 外注加工費について
弁護人は、以下の外注加工費については実額であるか、あるいはほ脱の故意がない旨主張するところ、高田利一(二通、検第一五号及び第一六号)、望月弘(検第二七号)及び被告人(検第一二七号)の検察官に対する各供述調書、第一六回公判調書中の証人柴田宏の供述部分、証人高田利一に対する当裁判所の尋問調書(昭和五五年九月三日、同年一〇月三日各施行分)によれば、被告人京阪工事株式会社(以下被告会社という)の下請に対する支払は、毎月二〇日締切りで、出来高に応じて下請先から下請代金を請求させ、これをその現場の責任者において査定したのち、業務課において前渡金等を差引いてその支払額を決定し、翌月一〇日経理課においてその代金を支払う方式を採用していたこと、業務課においては、毎月各下請先ごとにその請求額と支払の状況等を明らかにするための外注台帳(下請支払明細表、以下外注台帳という)を作成しており、従って、下請代金の支払に関する事柄については、原則として右外注台帳に記帳されるシステムになっていたこと、被告会社の下請業者は零細なものが多く、被告会社から支払を受ける代金によってその経営がなりたっている実情にあり、請求した下請代金は翌月一〇日にその支払を受けるのがほとんどで、二か月以上も支払を受けずに放置しておくことはほとんどなかったこと、架空外注加工費の計上は、昭和四九年三月期の決算に際して、被告人佐藤好夫(以下被告人という)が未払の架空外注加工費を計上して利益を少なくし、交際接待費などに使用する裏金を作るように指示したことから始まり、昭和五〇年及び五一年の各三月末決算では被告会社の利益もかなり上がったことや、会社の規模を大きくするのに多額の交際接待費等が必要であったため、期末のみならず期中においても架空外注費を計上するに至ったこと、右架空外注費を計上する下請先は、実在するものと実在しないものがあったこと、右裏金は簿外金銭出納帳によって管理されていたことが認められ、工事未払金台帳に下請先に対する未成工事支出金として計上されているものが架空のものであるか否かを判断するに際しては、それが外注台帳に記帳されているか、特段の事情がないのに右計上後その支払が遅れていないかなどの点が重要な判断基準になるものと言うことができる。そこで、以下各外注加工費について検討する。
1 昭和四九年度分の坂本勇分一〇〇万円について
弁護人は、右一〇〇万円のうち七五万円は実額であり、残りの二五万円についてはほ脱の故意がない旨主張するので判断する。
国税査察官作成の査察官調査書(検第七二号)、押収してある工事未払金台帳三綴(昭和五四年押第九四年押第九四号の七、八)及び外注台帳二綴(同押号の一〇、一一)によれば、昭和五〇年三月三一日工事未払金台帳に下請先の坂本勇に対する未成工事支出金として一〇〇万円を計上していること、右一〇〇万円は外注台帳に記帳されていないこと、同年五月三一日右坂本から請求があり、支払の決定があった一二九万五〇〇〇円のうち七五万円を差引いた五四万五〇〇〇円を工事未払金台帳に記帳したうえ、右一二九万五〇〇〇円は実額であるため、同年六月一〇日全額支払をしていること、同年九月一一日残額の二五万円を交通・宿泊代値引を理由に雑収入として戻していることが認められる。
ところで、被告人は、右未成工事支出金一〇〇万円は、昭和四九年度分の一年間の幾つかの工事の精算金であり、うち二五万円については、旅費・交通費を被告会社が直接支払っていたため、坂本組に支払ってはいけないので帳簿から落した旨供述するが(被告人の当公判廷における供述)、右供述自体曖昧であるし、そのとおりであるとすれば、右二五万円の戻し入れ処理は、その会計処理上極めて不自然であって、むしろ帳簿上残った二五万円を雑収入という理由をつけて処理したものと考えるほうが自然であるうえ、右一〇〇万円が清算金としての計上にしては、被告人の供述によってもその算出の具体的根拠は明らかではなく、債務として認めるにはあまりにも不確定であると言わざるを得ないから、右供述は措信できない。
以上のとおりであるから、昭和四九年度分の坂本勇分一〇〇万円の未成工事支出金は架空のものと認めるのが相当である。
2 昭和四九年度分の松本鋼機分一七五万円について
弁護人は、右一七五万円の計上は、事務の単純な誤りによるものであって、ほ脱の故意がない旨主張するので判断する。
国税査察官作成の査察官調査書(検第七二号)、被告人の当公判廷における供述、押収してある工事未払金台帳三綴(昭和五四年押第九四号の七、八)及び外注台帳二綴(同押号の一〇、一一)によれば、昭和五〇年三月三一日工事未払金台帳にその当時被告会社と取引がなかった松本鋼機に対する未成工事支出金として一七五万円を計上していること、同五一年三月三一日前記重複計上につき戻しとの理由で右全額を雑収入として戻していることが認められる。
ところで、被告人は、右計上について指示はしていないし、事務の単純な誤りである旨供述するが(被告人の当公判廷における供述)、右認定のとおり当時被告会社と松本鋼機とは取引がなかったものであるうえ、前記「外注加工費について」の冒頭で説明したとおり、本件が被告人の指示に基づき、架空の外注費を計上して接待交際費などに使用する裏金を作り、これを費消している過程でのものであることからすれば、事務担当者の単純な記帳上の誤りとはとうてい考えられず、右供述は措信できない。
以上のとおりであるから、昭和四九年度分の松本鋼機分一七五万円の未成工事支出金は架空のものであり、被告人の指示によりほ脱目的のもとに計上されたものと認めるのが相当である(なお、仮に被告人が述べるとおり右計上が事務の単純な誤りによるものであったとしても、後記「昭和五〇年度における未成工事支出金からの振替計上原価について」において説明するとおり、法人税ほ脱犯の故意の成立には、申告所得を超える何がしかの所得が存することの概括的認識があれば足りると解すべきところ、被告人に右認識があったことは明らかであるから、いずれにしても故意の成立を否定することはできない)。
3 昭和四九年度分の三京工業所分一五〇万円について
弁護人は、右一五〇万円のうち四二万三八四〇円は実額であり、残りの一〇七万六一六〇円についてはほ脱の故意がない旨主張するので判断する。
西沢一郎の大蔵事務官に対する質問てん末書(検第五一号)及び検察官に対する供述調書(検第五二号)、押収してある工事未払金台帳三綴(昭和五四年押第九四号の七、八)並びに外注台帳二綴(同押号の一〇、一一)によれば、昭和五〇年三月三一日工事未払金台帳に三京工業所に対する未成工事支出金として五〇万円、一〇〇万円の二口合計一五〇万円を計上していること、右一五〇万円は外注台帳に記帳されていないこと、同五一年一月一〇日三京工業所から請求のあった四二万三八四〇円を全額差引いて工事未払金台帳には記帳していないが、他方右四二万三八四〇円は実額であるため、同五〇年一二月二七日から同五一年一月一二日にかけて全額支払っていること、同年三月三一日右一五〇万円と四二万三八四〇円との差額一〇七万六一六〇円を値引を理由に雑収入として戻していること、同日工事未払金台帳に三京工業所に対する未成工事支出金として一五〇万円を計上していること、右一五〇万円についても外注台帳に記帳されていないこと、同年三月三一日計上の一五〇万円に対応する工事については、三京工業所において被告会社から下請したことはあるが、同五〇年一〇月ころ右工事を完成し、そのころ下請代金全額を受領していること、三京工業所の経営者である西沢一郎は、五一年三月五日ころ、被告会社の従業員に頼まれて架空の請求書や領収書を渡したことがあり、同年八月一二日右一五〇万円を受領したことになっているのは、右領収書を利用してなされたものであること、三京工業所において、右計上の未成工事支出金の支払を受けたことはないことが認められる。
ところで、被告人は、右未成工事支出金一五〇万円は、昭和四九年度における工事の期末における単価改定ないし赤字精算金として計上したものである旨供述するが(被告人の当公判廷における供述)、右一五〇万円が単価改定ないし赤字精算金としての計上にしては、前記と同様その算出の具体的根拠は明らかではなく、債務として認めるにはあまりにも不確定であるうえ、右認定のような計上した未成工事支出金についてのその後の帳簿上の処理方法、右未成工事支出金が外注台帳に記帳されていないことなどの事実に照らし措信できない。
以上のとおりであるから、昭和四九年度分の三京工業所分一五〇万円の未成工事支出金は架空のものと認めるのが相当である。
4 昭和四九年度分の堤組分三五五万円及び昭和五〇年度分の堤組分一六六五万円について
弁護人は、右三五五万円及び一六六五万円は、いずれも実額である旨主張するので判断する。
国税査察官作成の査察官調査書(検第七二号)、佐野市郎の検察官に対する供述調書(検第二四号)、押収してある金銭出納帳一冊(昭和五四年押第九四号の二)、工事未払金台帳三綴(同押号の七、八)及び外注台帳二綴(同押号の一〇、一一)によれば、昭和五〇年三月三一日工事未払金台帳に堤組に対する未成工事支出金として一五〇万円、二〇五万円の二口合計三五五万円を計上していること、右合計三五五万円は外注台帳に記帳されていないこと、昭和五〇年九月三〇日堤組から請求のあった四九〇万六二〇円のうち三五五万円を差引いた一三五万六二〇円を工事未払金台帳に記帳したうえ、同年一〇月一一日右請求金額は実額であるため支払をしていること(ただし一部相殺され現実の支払額は三九〇万円)、同年七月三一日工事未払金台帳に堤組に対する未成工事支出金として八六五万円、一五〇〇万円の二口合計二三六五万円を、同五一年一月六日前同様に未成工事支出金として三〇〇万円をそれぞれ計上していること、右二三六五万円及び三〇〇万円は外注台帳に記帳されていないこと、同年三月二日清算を理由として右二六六五万円のうち一〇〇〇万円を決算処理し、同月三日右一〇〇〇万円を簿外金銭出納帳に入金したこと、その後被告人らが相談した結果、右二六六五万円のうち一六六五万円を帳簿上から消すことになり、同年四月一〇日一六六〇万円を理由として決算処理し、五万円については清算を理由に雑収入として戻し、右一六六〇万円で新栄建設ほか六社の下請先に対する支払をなしたことが認められる。
ところで、被告人は、右未成工事支出金は、堤組が請負った幾つかの工事の清算金として計上したものである旨供述し(被告人の当判廷における供述)、堤組の経営者である堤梅雄も右供述に沿うかの如き証言(同証人に対する当裁判所の尋問調書)するが、右三五五万円及び一六六五万円が清算金としての計上にしては、前記と同様その計算の具体的根拠は明らかではなく、債務として認めるにはあまりにも不確定であるうえ、右認定のような計上した未成工事支出金についてのその後の帳簿上の処理方法、いずれも外注台帳に記帳されていないことなどの事実に照らし措信できない。
以上のとおりであるから、昭和四九年度分の堤組分三五五万円及び昭和五〇年度分の堤組分一六六五万円の未成工事支出金は架空のものと認めるのが相当である。
なお、被告会社作成の堤組に対する外注費元帳(弁第一号の一)によれば、被告会社は、昭和五二年三月三一日堤組に対する工事未払金台帳に、右新栄建設などに支払った金額を口座振替を理由に再計上し、その後順次支払などをなしていることが認められるが、右は特段の事情もないのに、本件についての査察が入った昭和五一年一〇月以降で、計上後一年以上も経過した後の処理であって、右未成工事支出金が架空であるとの認定を左右するに足りない。
5 昭和四九年度分及び同五〇年度分の旭基礎分各二五〇万円について
弁護人は、右各二五〇万円は、いずれも実額である旨主張するので判断する。
国税査察官作成の査察官調査書(検第七二号)、高田利一の検察官に対する供述調書(検第一六号)、篠原友義の大蔵事務官に対する質問てん末書(検第四三号)、証人高田利一に対する当裁判所の尋問調書(昭和五五年一〇月三日施行分)、押収してある工事未払金台帳三綴(昭和五四年押第九四号の七、八)、決算調整メモ一綴(同押号の九)及び外注台帳二綴(同押号の一〇、一一)によれば、昭和五〇年三月三一日工事未払金台帳に旭基礎に対する東海道草津圧入工事のための未成工事支出金として二五〇万円を計上していること、旭基礎は被告会社から右工事を請負い、同四九年二月中旬ころから六月中旬にかけて工事をなし、右計上以前に代金を全額受領済であったこと、右二五〇万円は外注台帳に記帳されていないこと、同五〇年一二月三一日旭基礎から請求のあった四二八万七六〇〇円のうち二五〇万円を差引いて一七八万七六〇〇円を記帳したうえ、右請求金額は実額であるため、同月二五日及び同五一年一月一七日の二回にわたり決済していること、同年三月三一日工事未払金台帳に旭基礎に対する未成工事支出金として二〇〇万円、五〇万円の二口合計二五〇万円を計上していること、右二五〇万円も外注台帳に記帳されていないこと、後者の二五〇万円については、被告人が昭和五〇年度分の決算に際して架空計上を指示したことに基づいて計上されたものであることが認められる。
ところで、被告人は、右各二五〇万円の未成工事支出金は、東京竹の塚の工事に際し被告会社が貸与した機械の修理運搬費として旭基礎に支払われるべきものであった旨供述するところ(被告人の当公判廷における供述)、第一七回公判調書中の証人篠原友義の供述部分及び被告人の当公判廷における供述によれば、契約上本来は旭基礎が行なうこととなっていた右修理運搬は、昭和四九年八月ころから保留されることになり、その後結局被告会社がその費用を負担してこれをなしたことが認められ、右被告人の供述は、右事実及び前記認定に照らし措信できない。
以上のとおりであるから、昭和四九年度分及び同五〇年度分の旭基礎分各二五〇万円の未成工事支出金は架空のものと認めるのが相当である。
6 昭和四九年度分の池田組分一〇〇万円及び昭和五〇年度分の池田組分五〇〇万円について
弁護人は、右一〇〇万円及び五〇〇万円は、いずれも実額である旨主張するので判断する。
国税査察官作成の査察官調査書(検第七二号)、池田武雄の大蔵事務官に対する質問てん末書(検第四六号)及び検察官に対する供述調書(検第四七号)、押収してある工事未払金台帳三綴(昭和五四年押第九四号の七、八)並びに外注台帳二綴(同押号の一〇、一一)によれば、昭和五〇年三月三一日工事未払金台帳に池田組に対する未成工事支出金として一〇〇万円を計上していること、右一〇〇万円は外注台帳に記帳されていないこと、同年九月三〇日請求のあった三七二万円のうち一〇〇万円を差引いた二七二万円を記帳したうえ、同年一〇月一一日右請求金額は実額であるため、その支払をしていること(ただし一部相殺され現実の支払額は二八〇万円)、同五一年三月一日工事未払金台帳に池田組に対する未成工事支出金として二九三万円、二〇七万円の二口合計五〇〇万円を計上していること、右五〇〇万円は外注台帳に計上されていないこと、右五〇〇万円に対応する工事の代金については、池田組は、出来高に応じて請求した月の翌月に既に支払を受けていること、その後右未成工事支出金は査察が入った同年一〇月までに支払われていないことが認められる。
ところで、被告人は、右各未成工事支出金は、第二近幹工事の清算金として計上したものである旨供述し(被告人の当公判廷における供述)、池田組の経営者である池田武雄も右供述に沿うかの如き証言(第二六回公判調書中の同証人の供述部分)をするが、右一〇〇万円及び五〇〇万円が清算金としての計上にしては前記と同様その計算の具体的根拠は明らかではなく、債務として認めるにはあまりにも不確定であるうえ、右認定のような計上した未成工事支出金についてのその後の帳簿上の処理方法、いずれも外注台帳に記帳されていないことなどの事実に照らし措信できない。
以上のとおりであるから、昭和四九年度の池田組分一〇〇万円及び昭和五〇年度分の池田組分五〇〇万円の未成工事支出金は架空のものと認めるのが相当である。
7 昭和五〇年度分の並木組分五九九万八六〇〇円について
弁護人は、右五九九万八六〇〇円は実額である旨主張するので判断する。
国税査察官作成の査察官調査書(検第七二号)、並木輝人の大蔵事務官に対する質問てん末書(検第三四号、抄本提出部分に限る)及び検察官に対する供述調書(検第三五号)、押収してある工事未払金台帳三綴(昭和五四年押第九四号の七、八)並びに外注台帳二綴(同押号の一〇、一一)によれば、昭和五一年三月三一日工事未払金台帳に並木組に対する第二近幹工事のための未成工事支出金として五九九万八六〇〇円を計上していること、並木組は被告会社から右工事を請負い、同四九年末ころ完成し、その代金は既に受領済であったこと、右五九九万八六〇〇円は外注台帳に記帳されていないこと、被告会社から並木組に対し、右工事に関して、右受領額のほかに六〇〇万円近いお金を支払う旨の話はなかったことが認められる。
ところで、被告人は、右五九九万八六〇〇円の未成工事支出金は、第二近幹工事の清算金として計上したものである旨供述するが(被告人の当公判廷における供述)、右供述は、並木組の経営者である並木輝人の証言(第一七回公判調書中の同証人の供述部分)と矛盾しているし、また右五九九万八六〇〇円が清算金としての計上にしては、前記と同様その計算の具体的根拠も明らかではなく、債務として認めるにはあまりにも不確定であるうえ、右認定のような外注台帳に記帳されていないことなどの事実に照らし措信できない。
以上のとおりであるから、昭和五〇年度分の並木組分五九九万八六〇〇円の未成工事支出金は架空のものと認めるのが相当である。
なお、被告会社作成の手形発行控(弁第八号の一)、並木組作成の領収書(弁第八号の二)及び並木組作成の内容証明郵便(弁第一一号証)、第一七回公判調書中の証人並木輝人の供述部分並びに被告人の当公判廷における供述によれば、被告会社は並木組に対して昭和五五年一月一八日右五九九万八六〇〇円のうち二五〇万円を手形で支払ったこと、並木組は被告会社に対して同年八月二五日第二近幹工事の残代金等の債権を第三者に譲渡した旨の通知をしたことが認められるが、右は、特段の事情もないのに、本件についての査察が入った昭和五一年一〇月以降で、五九九万八六〇〇円を計上後四年も経過(起訴後二年)した後の処理であって、右未成工事支出金が架空であるとの認定を左右するに足りない。
8 昭和五〇年度分の大平組分二〇六万円について
弁護人は、右二〇六万円は実額である旨主張するので判断する。
国税査察官作成の査察官調査書(検第七二号)、大平静雄の大蔵事務官に対する質問てん末書(検第五三号)、第一八回公判調書中の証人大平静雄の供述部分、押収してある工事未払金台帳三綴(昭和五四年押第九四号の七、八)及び外注台帳二綴(同押号の一〇、一一)によれば、昭和五一年三月三一日工事未払金台帳に大平組に対する淀大橋工事のため未成工事支出金として二〇六万円を計上していること、大平組は被告会社から右工事を請負い、遅くとも同五〇年一〇月には完成し、その代金は右計上前に既に受領済であったこと、右二〇六万円は外注台帳に記帳されていないこと、大平組の経営者である大平静雄は、被告会社に査察が入る同年一〇月まで、被告会社から右計上について話を聞いたことはなかったこと、右二〇六万円はその後も支払われていないことが認められる。
ところで、被告人は、右二〇六万円の未成工事支出金は、大台ケ原及び有馬ロイヤルの工事の清算金として計上したものであり、被告人個人の大平組に対する貸付金債権と相殺した旨供述するが(被告人の当公判廷における供述)、右二〇六万円が清算金としての計上にしては、前記と同様その計算の具体的根拠は明らかではなく、債務として認めるにはあまりにも不確定であるうえ、右認定のような外注台帳に記帳されていないこと、その後も支払がなされていないことなどの事実に照らし措信できない。
以上のとおりであるから、昭和五〇年度分の大平組分二〇六万円の未成工事支出金は架空のものと認めるのが相当である。
9 昭和五〇年度分のエスケー工事分一〇〇万円及び光映技術分二五〇万円について
弁護人は、エスケー工事分一〇〇万円は、既に支払ってはいるが、公表計算していないため、受注後支払処理するためなされたもので、実際の経費であり、また計算処理が間違っていたとしても、ほ脱の故意はなかった、光映技術分二五〇万円も実際の経費であり、支払がなされている旨主張するので判断する。
渡辺光作成の取引内容照会に対する回答と題する書面(検第五六号)、国税査察官作成の査察官調査書(検第七二号)、渡辺光の大蔵事務官に対する質問てん末書(検第五七号、抄本提出部分に限る)、高田利一の大蔵事務官に対する質問てん末書(検第一三号、抄本提出部分に限る)及び検察官に対する供述調書(検第一五号)、第一九回公判調書中の証人渡辺光の供述部分、押収してある工事未払金台帳三綴(昭和五四年押第九四号の七、八)、決算調整メモ一綴(同押号の九)及び外注台帳二綴(同押号の一〇、一一)によれば、昭和五一年三月三一日工事未払金台帳にエスケー工事に対する未成工事支出金として一〇〇万円を、光映技術に対する未成工事支出金として二五〇万円をそれぞれ計上していること、右一〇〇万円と二五〇万円はいずれも外注台帳に記載されていないこと、右計上に至った経緯は、被告会社において戸田建設発注の千葉県木更津市の区画整理事業工事を請負うことを条件として仲介者の光映技術に対しあっせん料五〇〇万円を支払うことになり、同五〇年三月二二日一〇〇万円を裏資金から、同五一年二月二八日一五〇万円、同年四月一二日二五〇万円をいずれも表資金からそれぞれ同社に支払ったが、右請負契約の締結には至らなかったため、特に表資金から支払った四〇〇万円の処理に困って右のとおり操作したこと、その後被告会社の東京出張所長において光映技術に対し右五〇〇万円の返還を請求したこと、光映技術においても、右五〇〇万円を返済しなければならないと考えているが、その資金の捻出ができないため、そのままになっていることが認められる。
ところで、被告人は、右一〇〇万円と二五〇万円の未成工事支出金は、工事受注のための経費である旨供述するが(被告人の当公判廷における供述)、右認定のとおり、右五〇〇万円については、請負契約が締結されることを条件として交付されたものであり、その後右契約が不成立に終ったのであるから、被告会社は光映技術に対し返還を求めることが可能であって、これが経費にあたらないことは明白である。
以上のとおりであるから、昭和五〇年度分のエスケー工事分一〇〇万円及び光映技術分二五〇万円の未成工事支出金は架空のものと認めるのが相当である。
二 機械の購入代金による架空原価について
弁護人は、昭和四九年度分において同年四月購入のアースオーガーK80H、同五〇年二月購入のアースオーガーD120等、同五〇年度分において同年九月購入のアースオーガー8MD-80H関係につき、検察官は右機械本体及び同時に購入した機具等一式すべてが機械装置であるとしているが、右機具のうち別紙機具目録記載のものは、いずれも消耗品に該当する旨主張するので判断する。
国税査察官作成の査察官調査書(検第九四号)及び第三五回ないし第三七回公判調書中の被告人の各供述部分によれば、アースオーガーは掘進機構にオーガースクリューを取付け、オーガースクリューの先にオーガーヘッドを装着し、動力源からの回転力をオーガースクリューを経てオーガーヘッドに伝達し、右オーガーヘッドが回転することによって地盤に穴を掘り、その土砂などをオーガースクリューの回転に伴って地表へ搬出する機械装置であって、必要に応じて大きさの異なる穴を質の異なる地盤に掘る機能を有していること、大きさの異なるオーガーヘッド、オーガースクリューは、大きさの異なる穴を掘るために必要なものであり、オーガーヘッドの先にはヘッド爪が、ヘッド爪の先にはチップが取付けられて使用され、別紙目録記載のその余の機具もオーガーヘッド、オーガースクリューに装着される部品であることが認められ、右認定に反する証拠はない(なお、同目録一、<13>記載のオーガースクリューは、以前に購入された機械に関する機具であるが、その用法は同一である)。
ところで、問題とされている機具が減価償却資産にあたるか否かは、一般の社会通念に従いその用途自体から客観的に判断すべきところ、右事実によれば、別紙機具目録記載の機具は前記機械に装着し使用されるものであって、その用途自体に照らせば、減価償却資産のうちの工具に該当するものと認めるのが相当であり、消耗品にはあたらないものと言うべきである。
三 減価償却について
弁護人は、昭和五〇年二月購入のP&H80P本体D-120掘進機構のうち工具計上した一〇〇〇万円を除くもの及び同五一年三月決算期に下取り処分したポクレンの減価償却費を損金に算入すべき旨主張するところであるが、法人の簿外資産については、減価償却費の損金算入が認められないことは明らかであるから、右主張は理由がない。
四 役員報酬について
弁護人は、被告会社が支払った役員賞与のうち、昭和四九年度分は七一〇万円を、同五〇年度分は九四七万九九九四円をいずれも使用人兼務役員の使用人分賞与として損金の額に算入すべきである旨主張するので判断する。
被告人の当公判廷における供述、高田利一の大蔵事務官に対する質問てん末書(検第一〇号、抄本提出部分に限る)、登記官作成の登記簿謄本二通(検第一三七号及び第一三八号)及び押収してある源泉徴収簿兼賃金台帳二冊(昭和五四年押第九四号の一四、一五)によれば、柴田宏、石井靖士、高木恒定、中村春之亟は、昭和四九年度及び同五〇年度分を通じて被告会社の使用人兼務取締役であったこと、田中泰之、野田停三は昭和五〇年度分においては使用人兼務取締役であったこと、被告会社では使用人兼務取締役に対し、賞与を他の使用人に対するその支給時期に表帳簿及び裏帳簿から支給し、表帳簿から支払った分については損金経理しているが、裏帳簿から支払った分については、当然のことながら損金経理していないことが認められる。
ところで、法人が役員に対して支給する賞与の額は、所得の金額の計算上、損金の額に算入しないのを原則とするが(法人税法三五条一項)、例外的に使用人兼務役員に対し、その使用人としての職務に対する賞与を、使用人に対する賞与の支給時期に支給する場合に、これを損金経理したときは、その損金経理した金額のうち、その法人の他の使用人に対する賞与の支給の状況に照らし、その使用人としての職務に対する賞与として相当であると認められる額は損金の額に算入されるところ(同法三五条二項、同法施行令七〇条)、表帳簿から支払った役員賞与についての損金経理は是認されているし、また裏帳簿から支給されたものについては、損金経理されていないから、「損金経理したとき」という右要件を満しておらず、右簿外で支給した役員賞与については損金の額に算入されないものと言うべきであって、右主張は理由がない。
五 交際接待費について
1 完成工事原価組入れ主張分について
(一) 通信交通費組入れ主張分について
弁護人は、被告会社は、昭和四九年八月二日一万円を支出しているが、右は通信交通費に該当する旨主張するので判断する。
被告人の当公判廷における供述、押収してある金銭出納帳一冊(昭和五四年押第九四号の一)及び領収証請求書綴一綴(同押号の一六)によれば、被告会社は、三井建設から下請した工事番号K四八〇三六の工事に関し、被告会社の責任から仕事が深夜に及び、公共交通機関がなくなったため、右会社の現場監督が帰宅するタクシー代として一万円を支出したことが認められ、右認定に反する証拠はない。
右事実によれば、右は交通費にあたるものというべきである。
(二) 雑費組入れ主張分について
弁護人は、被告会社は、<1>昭和四九年一一月二五日一〇〇万円、<2>同年一二月二五日七〇万円、<3>同月二六日四五万円、<4>同月二八日四〇万円、<5>同五〇年三月二九日三〇万円、<6>同年八月一三日一二五万円、<7>同年一一月一一日八万円、<8>同年一二月二二日二〇八万円を各支出しているが、右はいずれも雑費に該当する旨主張するので判断する。
(1) 被告人の当公判廷における供述及び押収してある金銭出納帳一冊(昭和五四年押第九四号の二)によれば、右<1>、<2>は、被告会社の城陽町における工事現場の残土処理に伴う紛争解決のために支出されたものであること、右<7>は、常盤カントリーのゴルフ場造成工事を受注のため、同ゴルフ場の設計図を買取った費用で、受注は出来なかったことが認められ、被告人作成の確認書(検第一一三号)のうち右認定に反する部分は措信できない。
右事実によれば、右<1>、<2>、<7>は雑費にあたるものというべきである(右<1>、<2>、<7>については完成工事原価にあたるので、別紙修正損益計算書は組替えのうえ作成)
(2) 被告人の当公判廷における供述及び押収してある金銭出納帳一冊(昭和五四年押第九四号の二)によれば、右<3>、<4>、<6>、<8>については、支払先が被告会社の主要な元請先である日本鋼管工事の従業員で、その対象者は多数にのぼっていること、その支払が八月、一二月で、中元、歳暮の時期になされていること、支払金額の具体的な計算根拠が明らかでないこと、右<5>については、支払先が被告会社の元請先である吉村建設の従業員であること、支払金額の具体的な計算根拠が明らかでないうえ、被告会社のアルバイトに対する報酬としては極めて高額であることが認められる。
右事実によれば、右<3>ないし<6>、<8>は、いずれも取引先の関係者に対する贈答等のために支出されたものと推認するのが相当であって、交際接待費にあたるものというべきである。第三二回公判調書中の証人田中照敏の供述部分、第三三回公判調書中の証人桝本安蔵の供述部分及び被告人の当公判廷における供述のうち右認定に反する部分はにわかに措信し難い。
(三) 会議費組入れ主張分について
弁護人は、被告会社は、<1>昭和四九年五月一一日一万円、<2>同年六月一九日二万八八〇〇円、<3>同年八月二日六万三三〇〇円、<4>同月五日五万一四四〇円、<5>同日二万一〇〇〇円、<6>同月一六日二〇万一二五五円、<7>同年一一月一三日二万六五〇〇円、<8>同日一一万一一七円、<9>同年一二月二六日四万三〇〇〇円、<10>同日二万四一三五円、<11>同五〇年二月八日六万三七〇〇円、<12>同日二万七八九六円、<13>同日二万七四九〇円、<14>同年三月三日六万四二一五円、<15>同月二二日三万八六七〇円、<16>同日五万八二九五円、<17>同日一一万七四三八円、<18>同年四月八日七万八六〇〇円、<19>同月二六日七万一六九二円、<20>同月二八日二万一一七五円、<21>同年五月九日六万一一一〇円、<22>同月二三日四万六一三〇円、<23>同日三万八二五〇円、<24>同日一九万四六〇〇円、<25>同年六月二六日一万八三〇〇円、<26>同年七月一日六万二〇〇〇円、<27>同日二万二四〇〇円、<28>同日一四万八八四一円、<29>同月三日八万円、<30>同年八月一三日三万五二九〇円、<31>同日六万七二三九円、<32>同年九月二〇日三万七一三四円、<33>同年一〇月一五日七万六一七〇円、<34>同日六万三三七六円、<35>同月二三日二万九二八〇円、<36>同年一一月一一日二万二一七〇円、<37>同日七万二〇〇〇円、<38>同日二万六四三八円、<39>同年一二月二二日二三万三五〇〇円、<40>同五一年一月一九日五万五七二〇円、<41>同月二四日一万六七〇〇円、<42>同年三月一六日五万六一一〇円を各支出しているが、右はいずれも会議費に該当する旨主張するので判断する。
(1) 被告人の当公判廷における供述及び押収してある金銭出納帳二冊(昭和五四年押第九四号の一、二)によれば、右<1>については、日本鋼管工事から受注した工事につき現場で作業用の土地を借りるため地主に手土産を持参した際の費用であること、右<2>については、元請先の日本鋼管工事との現場での打合せの費用であること、右<3>については元請先の日本鋼管との現場打合せの費用であること右<12>、<14>、<15>、<21>、<29>、<32>、<33>、<36>、<40>については、打合せ、会議等の際の弁当代等であることが認められ、右認定に反する証拠はない。
右事実によれば、右<1>は雑費に、右<2>、<3>、<12>、<14>、<15>、<21>、<29>、<32>、<33>、<36>、<40>は会議費にそれぞれあたるものというべきである。
(2) 被告人の当公判廷における供述、押収してある金銭出納帳二冊(昭和五四年押第九四号の一、二)及び領収証請求書綴六綴(同押号一六ないし二一)によれば、右<4>、<6>、<9>、<11>、<24>、<26>、<37>、<39>については、いずれも旅館「藤川」に支払われたものであるが、そのうち<24>、<26>、<37>、<39>については同旅館での接待マージャンなどの費用であることが領収証等によって明らかであり、それ以前のものである<4>、<6>、<9>、<11>も同様の費用であると推認されること、右<5>については、元請会社の日本鋼管及び大阪ガスの従業員を「大江戸」で接待した際の費用であること、右<7>については、元請先の日本鋼管工事の従業員を飲食やサウナで接待した際の費用であること、右<8>、<10>、<17>、<20>、<23>、<28>、<30>、<34>、<38>、<42>については、飲食店の「大まさ」において、水炊き、ビール、酒などで接待した際の費用であること、右<13>、<16>、<22>、<27>、<31>、については、飲食店の「かねよ」において、ビール、酒などで接待した際の費用であること、右<18>については、元請先の仁木工務店の従業員を「キャラバン」で接待した際の費用であること、右<19>については、「たかせ川」、「とり市」、「三嶋亭」、「新阪急ホテル」、「リヨン」、「万福庵」において、飲食などの接待をした際の費用であること、右<25>については、寿司店の「寿し菊」において、接待した際の費用であること、右<35>については、スナック「ドル」及び「いづう」において、飲食などの接待をした費用であること、右<41>については、「う一番遠州」において、食事や手土産などの接待をした費用であることが認められる。右事実に、前記「架空外注加工費について」の冒頭で認定の被告会社は交際接待費などに使用するため裏金を作り、これを簿外金銭出納帳で管理していたことをも付加して考察すれば、右<4>ないし<11>、<13>、<16>ないし<20>、<22>ないし<28>、<30>、<31>、<34>、<35>、<37>ないし<39>、<41>、<42>は、いずれも接待のための費用として支出されたものと認めるのが相当であって、交際接待費にあたることは明らかである。被告人の当公判廷における供述のうち右認定に反する部分はにわかに措信し難い。
2 一般管理費組入れ主張分について
(一) 福利厚生費組入れ主張分について
弁護人は、被告会社は<1>昭和四九年一二月二七日一万六三七〇円、<2>同五〇年六月一一日四万四六九〇円、<3>同月二〇日一万円、<4>同月二二日七五万円、<5>同日二万二〇〇〇円、<6>同日一万八七四〇円、<7>同日一一万四七三〇円、<8>同月二四日二万四〇〇〇円、<9>同月二〇日・同月二七日二六万円、<10>同月三〇日八二六〇円、<11>同年七月三日一四万九八四〇円、<12>同月九日五万一〇〇〇円、<13>同月二一日七万五九一六円を各支出しているが、右はいずれも福利厚生費に該当する旨主張するので判断する(ただし、右<2>ないし<6>、<10>のうち一七万五五三七円)
(1) 被告人の当公判廷における供述及び押収してある金銭出納帳二冊(昭和五四年押第九四号の一、二)によれば、右<1>については、被告会社の経理課長である高田利一らが、年末の休暇に入った日に、夜遅くまで残業したため、仕事が終ってからサウナに入った費用などであること、右<13>については、被告会社に一〇年間勤務した従業員を慰労するため熱海旅行に招待した費用であることが認められ、他に右認定に反する証拠はない。
右事実によれば、右<1>、<13>は福利厚生費にあたると言うべきである(右<1>、<13>については一般管理費にあたるので、別紙修正損益計算書は組替えのうえ作成) (2) 被告人の当公判廷における供述、被告会社作成の創立一〇周年記念祝賀会招待者名簿(弁第二二号)及び押収してある金銭出納帳一冊(昭和五四年押第九四号の二)によれば、右<2>ないし<10>については、被告会社の創立一〇周年記念の祝賀会に関する費用であること、右祝賀会参加者は招待客約一九〇名、従業員約五〇名であったこと、右のうち<7>については、右祝賀会のあとの二次会の費用であること、右<11>については、特定の幹部の就任祝いのための飲屋での会食費用であること、右<12>については、記念ボーリング大会のあとの従業員の飲屋での会食費用であることが認められる。
右事実によれば、右<2>ないし<12>は、いずれも取引先や事業関係者のために支出されたものと認めるのが相当であって、交際接待費にあたることは明らかである(なお、創立一〇周年記念の祝賀会には従業員も参加しているが、前記のとおり参加者は従業員よりも招待者の方がはるかに多いことからして、その費用全体を交際接待費と認めるのが相当である。)。
(二) 旅費交通費組入れ主張分について
弁護人は、被告会社は昭和五〇年九月三〇日一万六〇〇〇円を支出しているが、右は旅費交通費にあたる旨主張するので判断する。
被告人の当公判廷における供述及び押収してある金銭出納帳一冊(昭和五四年押第九四号の一)及び領収証請求書綴一綴(同押号の二〇)によれば、金銭出納帳には昭和五〇年九月三〇日光代タクシー代一万六〇〇〇円と記載されていること、右光代は京都祇園にあるクラブであり、同じ日に同店に対して七万円の支払がなされていることが認められる。
右事実によれば、右は、取引先ないし事業関係者を右光代で接待した際の送迎用のタクシー代であると推認するのが相当であって、交際接待費にあたることは明らかである。被告人の当公判廷における供述のうち右認定に反する部分は措信できない。
(三) 諸会費組入れ主張分について
弁護人は、被告会社は<1>昭和四九年九月一〇日五万七七九五円、<2>同年一〇月二五日二〇万円、<3>同年一二月六日二万六七四〇円、<4>同月一三日二万五五三〇円、<5>同五〇年二月一八日五万四二六〇円、<6>同月二六日二〇万円、<7>同年四月五日二万一六五〇円、<8>同日一六万九〇〇〇円、<9>同年七月一八日一〇万円、<10>同年八月八日二万円、<11>同月一三日九万六五〇〇円、<12>同日九万四六五〇円、<13>同年九月二五日二万円、<14>同年一一月一一日二万円、<15>同月二七日二万円、<16>同年一二月一三日一〇万円(同月一五日精算されて一万三四七〇円戻し)を各支出しているが、右はいずれも諸会費に該当する旨主張するので判断する。
(1) 被告人の当公判廷における供述及び押収してある金銭出納帳二冊(昭和五四年押第九四号の一、二)によれば、右<1>、<3>ないし<5>、<7>、<10>、<12>については、同業者のうち特殊な機械を扱っている業者の有志によって構成されている団体で、仕事上の技術・機械に関する知識の普及・交換、情報収集を目的とする竹公会の会費ないし視察関係の諸経費であること、右<11>については建設業協会の内部で結成された団体で、毎月一〇日に開催され、右竹公会と同様の目的をもつ結成された十日会の費用であること、右<13>ないし<15>については、労務管理等の講習などをしている竹中事務所に対する会費であること、右<16>については、水道工事業者の有志によって結成された団体で、右竹公会と同様の目的をもつ水交会の会費であることが認められ、右認定に反する証拠はない。
右事実によれば、右<1>、<3>ないし<5>、<7>、<10>ないし<16>は諸会費にあたるものと言うべきである。
(2) 被告人の当公判廷における供述及び押収してある金銭出納帳二冊(昭和五四年押第九五号の一、二)によれば、右<2>、<6>、<9>については、同業者の集りである建設業協会の関係でのものではあるが、その行先は伊豆、城ノ崎、沖繩(海洋博)で、いずれも観光地であり、しかもその後精算はなく渡しきりになっていること、右<8>については、前記十日会の関係でのものではあるが、その行先はマニラ、香港で、海外であること、右はいずれも裏金から支出されていることが認められる。右事実に、前記「架空外注加工費について」の冒頭で認定の被告会社は交際接待費などに使用するために裏金を作り、これを簿外金銭出納帳で管理していたことをも付加して考察すれば、右<2>、<6>、<8>、<9>はいずれも同業者との懇親のための費用として支出されたものと推認するのが相当であって、交際接待費にあたることは明らかである。被告人の当公判廷における供述のうち右認定に反する部分は措信できない。
(四) 雑費組入れ主張分について
弁護人は、被告会社は、<1>昭和五〇年八月二九日五万円、<2>同月三〇日二万九五一〇円を各支出しているが、右は雑費ないし会議費に該当する旨主張するので判断する。
被告人の当公判廷における供述及び押収してある金銭出納帳二冊(昭和五四年押第九四号の一、二)によれば、右<1>については、被告会社のガス工事部門を京都市内の五条から上鳥羽へ移転した際の行事の費用で、参加者は従業員のみであったこと、右<2>については、被告会社の大阪所長の移動に関する人事のための部長以上のクラスの幹部会のための費用であることが認められ、右認定に反する証拠はない。
右事実によれば、右<1>、<2>は雑費にあたるものと言うべきである(右<1>については一般管理費にあたるので、別紙修正損益計算書は組替えのうえ作成)。
(五) 寄付金組入れ主張分について
弁護人は、被告会社は<1>昭和四九年一二月二日五〇〇万円、<2>同五〇年三月二二日五万円、<3>同日三万円、<4>同年四月八日一〇万円、<5>同日一〇万円、<6>同日五万円、<7>同月三〇日六万七〇〇〇円、<8>同年六月二四日五〇〇〇円、<9>同年一一月一二日二万円、<10>同月二一日一万円、<11>同年一二月四日二〇〇万円を各支出しているが、右はいずれも寄付金に該当する旨主張するので判断する。
被告人の当公判廷における供述、押収してある金銭出納帳一冊(昭和五四年押第九四号の二)及び領収証請求書綴一綴(同押号の一八)によれば、右<1>ないし<3>、<11>については政治家に対する政治献金であること、右<4>ないし<6>については、府会議員らに対する選挙の陣中見舞金であること、右<7>については、府会議員に対する選挙費用の割当として支払ったこと、右<8>については、議員の後援会費であること、右<9>、<10>については、社会党の創立三〇周年記念祝賀会の祝賀費用であることが認められ、被告人の当公判廷における供述のうち右認定に反する部分は措信できない。
右事実によれば、右<1>ないし<11>は寄付金にあたるものと言うべきである。
六 貸付金について
弁護人は、被告会社は、<1>昭和四九年一二月二三日五万円、<2>同五〇年三月二二日一〇〇万円、<3>同年八月一三日五万円、<4>同年一二月二二日一〇万円、<5>同五一年二月二八日一五〇万円を各支出しているが、野口佐治兵衛に対して支払った右<1>、<3>、<4>については、労務の報酬的なものであり、光映技術に対して支払った右<2>、<5>については、前記「外注加工費について、9昭和五〇年度分のエスケー工事分一〇〇万円及び光映技術分二五〇万円について」において主張したとおり営業経費に該当する旨主張するので判断する。
1 被告人の当公判廷における供述、第三四回公判調書中の証人野口佐治兵衛の供述部分及び押収してある金銭出納帳一冊(昭和五四年押第九四号の二)によれば、野口佐治兵衛は暁建設の代表取締役であったが、同会社は昭和四五年七月ころ被告人に買収され、その後会長の職にあったこと、右会長としての報酬は暁建設から支払われていたこと、暁建設は橋梁専門の会社であったところ、買収後被告会社が施行した橋梁工事について、被告会社は、右野口から技術、工事施工の指導を受けたこともあったけれども、報酬についての具体的な約束はなかったこと、右<1>、<3>、<4>の支払は、八月、一二月の中元、歳暮の時期になされていること、帳簿上は、右支払を金一封として処理していることが認められる。
右事実によれば、右<1>、<3>、<4>は、右野口に対する謝礼として盆、暮に持参したものと推認するのが相当であって、交際接待費にあたるものというべきである。被告人の当公判廷における供述のうち右認定に反する部分はにわかに措信できない。
2 右<2>、<5>についての判断は、前記「外注加工費について、9昭和五〇年度分のエスケー工事分一〇〇万円及び光映技術分二五〇万円について」において説示したとおりであって、右の点についての主張は理由がない。
七 完成工事高について
弁護人は、昭和五〇年度分について、収入除外とされている株式会社日本基礎分二六四〇万円は、当該工事が未完成であったから本来完成工事高に計上すべきものではないし、仮に右二六四〇万円が完成工事高と認められるとしても、右のうち手形で受領した二四二〇万円については貸倒損失として損金算入が認められるべきである旨の主張するので判断する。
佐野市郎作成の確認書(検第二五号)、国税査察官作成の査察調査書(検第七六号)、日本基礎作成の註文書(弁第六号の一)、佐野市郎(検第二四号)及び被告人(検第一二七号)の検察官に対する各供述調書、第一四回公判調書中の証人佐野市郎の供述部分、第一六回公判調書中の証人柴田宏の供述部分、証人高田利一に対する当裁判所の尋問調書(昭和五六年一月二七日施行分)並びに第三六回公判調書中の被告人の供述部分によれば、被告会社は、日本基礎から昭和五〇年八月二五日工事番号五〇八一三、五〇八二一の工事を、代金三三五〇万円、支払方法毎月二〇日出来高締、翌月二八日払いの約定で請負い、その出来高に応じて昭和五〇年一二月ころから同五一年三月までの間に工事代金合計二六四〇万円(うち二四二〇万円については手形七通で、残りの二二〇万円については立替金と相殺)の支払を受けたこと、同五一年三月下旬ころ、右手形の一部が不渡りとなったため、被告人は従業員に右工事代金を完成工事高から抜くように指示して、これを収入から除外させるとともに、右除外にかかる収入に対応する工事原価二五四五万四三一一円(工事番号五〇八一三の工事原価は二二六八万八五五円、同五〇八二一のそれは二七七万三四五六円)を三重県企業庁から受注した工事番号五〇七一九の工事原価に振替えたこと、日本基礎は同五一年三月二〇日ころ倒産したため、その後間もなく被告会社は右工事現場を引上げ、以後仕事はしていないこと、同五一年八月ころ被告会社の経理課長であった高田利一は、税務署の調査により右操作が発覚することを恐れ、部下の佐野市郎に対し右手形を自宅に持帰って保管するよう指示したため、査察が入った当時同人が右手形を所持していたことが認められる。
ところで、請負による収益の帰属の時期に関して、請負による収益の額は、物の引渡を要する請負契約にあってはその目的物の全部を完成して相手方に引渡した日、物の引渡しを要しない請負契約にあっては、その約した役務の全部を完了した日の属する事業年度の益金の額に算入するのが原則であるけれども、事業年度内に契約の一部が未完成であった場合でも、契約に従って、既に完成された部分について、出来高により代金が債権として確定している場合には、その限度において右確定した代金が同事業年度の益金に帰属すると解すべきところ、前記認定のとおり被告会社は右日本基礎から請負った工事を完成していないけれども、約定に従い出来高に応じて工事代金二六四〇万円の支払を受けているうえ(支払方法は前記のとおり)、右事業年度内に右日本基礎が倒産し、被告会社も工事現場から引上げていて、工事が続行される見込みがなかったなどの事情があるから、右工事代金二六四〇万円は昭和五〇年度分の完成工事高に計上すべきものと認めるのが相当である(なお、弁護人は、前記のとおり、右二六四〇万円が完成工事高と認定される場合でも、右受取手形合計二四二〇万円については貸倒損失として損金算入されるべきである旨主張するが、右日本基礎が倒産したのは昭和五一年三月二〇日であって、右事業年度内で直ちに回収不能になったものとすることはできないから、右主張は理由がない)。
八 完成工事原価について
弁護人は、暁建設の決算期である昭和五〇年七月三一日及び被告会社の決算期である同五一年三月三一日の二回にわたり、城陽幹線今池など合計一五件の工事につき、実際は被告会社がその下請を使用して施行したにもかかわらず、被告会社が暁建設に発注し、同社が施行したように操作した点については、この業界において、工事受注者の工事能力、業者間の利益分配、業者の成績をたかめる等種々の事情から受注工事を外注形式を利用して廻し合ったり、あるいは合同受注したりして、形式と実際の工事者が異なることが広く行われており、本件において、被告人は当時暁建設の経営状態が悪く、工事受注能力が低下していたため経理状態をよくして信用をたかめ、工事受注能力をたかめるために、また一方暁建設買収後、同社所有の機械等を被告会社において無償で使用していたため、その代償の意味もあったためであって、ほ脱の故意はなかった旨主張するので判断する。
高田利一(二通、検第一五号及び第一六号)及び被告人(二通、検第一二七号及び第一二八号)の検察官に対する各供述調書、証人高田利一に対する当裁判所の尋問調書(昭和五六年一月二七日施行分)、第二九回公判調書中の証人山本良次の供述部分、第三〇回公判調書中の証人足立誠治の供述部分、第三四回公判調書中の証人野口佐治兵衛の供述部分並びに第三八回公判調書中の被告人の供述部分によれば、被告人は昭和四五年七月ころ橋梁専門の会社である暁建設を買収したが、その当時同社は相当数の建設機械等を所有していたこと、その後暁建設が保有していた機械等は被告会社の機械等とともに一括して保管されるようになったこと、被告会社において右建設機械等を使用しても暁建設に賃借料を支払ったことはないこと、前記操作に際して、実際の完成工事原価合計六億五八八一万六六九八円に二二六八万三三〇二円を上積みして合計六億八一五〇万円で暁建設に発注したように処理したこと、そのため右上積分だけ、被告会社の利益が暁建設に振替えられた形になったこと、右操作当時両会社の社長は被告人であったこと、被告会社は利益を計上していたが、暁建設は繰越欠損の状態にあったことが認められる。
右認定事実を前提に検討するに、被告会社は暁建設の建設機械等を使用しながら、その賃借料を支払っていなかったが、それは賃料の額等についての具体的な定めがなかった結果に基づくものであり、更に弁護人主張の清算の具体的根拠も明らかではないことからすれば、右清算の主張をもって本件操作を正当化することはできないし、また右操作が暁建設の受注能力増強のため、その売上高を大きく見せかける必要からなされたものであるとしても、両会社の関係、経営状態、被告会社から暁建設への利益の振替処理がなされていることなどからして、ほ脱の故意があったものと言うべきである(なお仮にそうでないとしても、後記「昭和五〇年度における未成工事支出金からの振替計上原価について」において説明するとおり、法人税ほ脱犯の故意の成立には、申告所得を超える何がしかの所得が存することの概括的認識があれば足りると解すべきであるところ、被告人に右認識があったことは明らかであるから、いずれにしても故意の成立を否定することはできない)。
九 昭和五〇年度分における未成工事支出金からの振替計上原価について
弁護人は、工事番号五〇八三三の工事につき一〇〇万円、同五〇一〇四の工事につき二五〇万円各工事原価が過大に計上されているのは、経理担当者の記帳の誤りによるものであって、ほ脱の故意はなかった旨主張するので判断する。
佐野市郎の大蔵事務事官に対する質問てん末書(検第二三号)によれば、被告会社は、昭和五〇年四月以降会計帳簿を作成するのにコンピューターを利用するようになったが、同五一年三月期の決算に際して、コンピューターで処理していては時間的に間に合わなかったため、未成工事支出金の期末整理と完成工事原価の振替処理などを手書きにより行い、手書きの決算書を作成したが、その後正規にコンピューターにより試算表などを作成していて、右五〇八三三、五〇一〇四の工事について実際工事原価以上の金額を完成工事原価としていることが判明したものの、これを訂正せず、同月末現在未完成である工事原価の一部を右工事原価に振替える経理操作をなして、手書きによる右決算書の決算額に合うようにしたことが認められ、右事実によれば、右工事原価の過大計上は、被告会社の経理担当者の過誤によるものと言うことができる。
ところで、法人税ほ脱犯の故意の成立があるというためには、申告所得を超える何がしかの所得が存することを概括的に認識すれば足り、個々の勘定科目、会計的事実の認識は、所得算出の手続上必要なものであるが、それ自体個々的な故意の内容をなすものではなく、従って、右概括的認識があれば、正当税額全体について故意が及び、一部の勘定科目について脱ろうないし架空計上の認識がなかったことなどは情状に影響を及ぼすことはあっても、犯罪の成否には関係がないと解すべきであるから、右認定のような理由で、右工事原価の過大計上分の故意を否定することはできない。
(法令の適用)
一 被告人京阪工事株式会社につき
1 罰条
判示各所為につき 法人税法一五九条、一六四条一項(昭和五六年法律第五四号による改正前のものを適用)
2 併合加重
刑法四五条前段、四八条二項
3 訴訟費用の負担
刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条
一 被告人佐藤好夫につき
1 罰条
判示各所為につき 法人税法一五九条一項(昭和五六年法律第五四号による改正前のものを適用)
2 刑種の選択
いずれも懲役刑選択
3 併合加重
刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の重い判示第一の罪の刑に加重)
4 執行猶予
刑法二五条一項
5 訴訟費用の負担
刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 大谷正治)
機具目録
一 昭和四九年四月購入のアースオーガーK80H関係
<1> オーガースクリューSHF500Φ×5メートル 三本 一八六万円
<2> オーガースクリューSHF500Φ×3メートル 一本 五六万円
<3> オーガーヘッドHHF500ΦB 二個 一一二万円
<4> ヘッドツメ(住友電工製) 八個 四四万円
<5> ハンテインシヨンボルト一荷四分の1×170 二〇本 三万円
<6> スクリューパッキング 一〇枚 三〇〇〇円
<7> ヘッド弁 七〇本 七〇〇〇円
<8> ヘッドツメSCM-3 一四個 七万円
<9> オーガースクリューSP6-40 1000Φ×24メートル 八本 七五万円
<10> オーガーヘッドHP6-40 1000Φ 一個 七五万円
<11> 継手ピンSH6-40 二〇本 七五万円
<12> オーガースクリュー800Φ×2.5メートル 五本 七五万円
<13> オーガースクリューSF600Φ×157 一三本 一五六万円
二 昭和五〇年二月購入のアースオーガーD120 関係
<1> オーガースクリューSHF450Φ×5メートル 五本 三〇〇万円
<2> オーガーヘッドHHF450Φ-B 二個 一〇〇万円
三 昭和五〇年九月三〇日購入のアースオーガー8MD-80H関係
<1> オーガースクリューSHF600Φ×5メートル 二本 一四四万円
<2> オーガーヘッドSHF600ΦB 一個 五三万円
<3> オーガーヘッドHHF650ΦB 一個 六二万円
<4> オーガーヘッドHP6-60 600ΦB 一個 四二万円
修正損益計算書
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完成工事原価報告書
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修正損益計算書
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完成工事原価報告書
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脱税額計算書
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